結果的には民家の方がとてもご理解のある方で助かったのですが・・・
この日は有害鳥獣捕獲を実施。

イノシシ被害が多いとのことで、その指定地区をガラ掛けで巻き狩りをすることに。
「ガラ掛け」とは、見切り(猟場内の獲物の有無を足跡などで判別する)を行わずに猟犬を使った猟を行うことを言います。
こちらの方では、この様な流れの猟をそう呼んでいるのです。
とは言っても、どんなサイズのイノシシがいるのかは確認しておきたいところ。
被害に遭った畑の中に残ったイノシシの足跡を見てみます。
足跡の大きさと沈み込み方からすると10~15貫の中くらいのイノシシが2・3頭か?
畑の横に出てきたタケノコもキレイに食べています。
早速、全員配置に着き、巻き狩りを開始。
猟犬たちは既に獲物の気配を感じている様子。

合図とともに、イノシシがタケノコを食べていた場所からコーシンとカノを放します。

その食べ跡が今朝のモノだったため、イノシシの残臭が残っていたのでしょう、2頭はイノシシの寝屋にまっしぐら。
ものの数分で鳴き出し・・・
「鳴き出した、頼んだぞ!」と、私は無線を飛ばします。
2頭は尾根の頂上付近で獲物を鳴き止め。
GPS上の猟犬の動きからして獲物はやはりイノシシ。
「待ってろよ~!」と私は鳴き止め現場に向かって駆け上がります。
「あれ?体が軽い」
ダイエットで5kg落とした効果はテキメン!
カモシカのごとく山を登って行きます・・・・・ちょっと大げさ!
「もうちょっと!あと50m!」
GPSで確認し、走りを止めて・・・・・
と、次の瞬間、一気に山の下へと猟犬たちの鳴き声が遠ざかります。
な~んだ、せっかく登ったのに・・・・・
今度は山裾で鳴き止め。
「なぬ!位置からして集落の近くだぞ、まずい!」
先週に引き続き「ファイト~!イッパ~ツ!」で、鳴き声めがけて駆け下ります。
しかし現場まではまだ300m近く。
登りより下りの方が転倒しやすいため、慎重に・・・でもスピーディーに進行。
現場まであと少し。
進むペースを落とし、コーシンとカノの激しい鳴き声の方に向かって、そ~っと近付きます。
すると現場はやっぱり民家裏の山裾。
民家の方々が家の中から恐る恐る見学しています。
私はその方々に向かってジェスチャー。
『すいませ~ん、鉄砲撃ちますんで!』と、左手で鉄砲を指さします。
『どうぞ、いいですよ、仕方がないですよね!』と、その家の奥さんもサイレントにジェスチャー。
住民の方々と心が一つになり、私は勇気100倍!
お巡りさんに対して・・・・・それは措いといて・・・・・
そうなんです、イノシシと絡んでいる時は「音」は禁物。
人が来た気配で逃げ出してしまうことも多いのです。
コーシンとカノの激しい鳴き声がイノシシの注意を引き付けてくれているので助かります。
しかし、イノシシの頭が草木に邪魔されて狙いを付けられず・・・
仕方なく首付近の背骨あたりに狙いを付けて・・・
「御免」
仕留めたイノシシが民家の裏庭に転げ落ちます。
この様な現場状況では一撃必殺でないと更に被害が大きくなる可能性が大。
もちろん猟犬たちもケガのリスクが高まります。
手負いとなったイノシシは捨て身の攻撃を仕掛けてくるからです。
人にも犬にも。
失敗は許されません・・・・・で、一安心。
コーシン、もう終わったんだよ、ご苦労さん。

カノは転がったイノシシ横の土手の上で満足気な様子、こちらもご苦労さん。
民家の方々にはお詫びをし、汚したところを完全復旧。

この様な場合のためにブラシと水はいつも軽トラに積んでいるのですが、今回は民家の方がブラシと水を快く貸して下さり助かりました。
最後は深々と頭を下げ、協力して下さった民家を後にします。
その間、山の上の方では・・・
この騒ぎでショロ抜けした(そ~っと抜け出した)もう一匹のイノシシをタツがハズシまくっている様子の無線。
最終的にはそのイノシシに逃げられてしまいました。
それでこの日はお仕舞い。
私は一足お先に本部に戻り捕獲したイノシシを降ろします。

しばらくすると猟場より隊員が引き上げてきました。
皆でとりあえずお昼ご飯を食べ、その後にイノシシの解体。
奪った命を有効に利用させて頂きます。
そして最後は反省会をして解散。
今回も私は考えてしまいます。
捕獲業務中の事故(本人に過失の無い)や猟犬事故は、猟友会やそれを依頼した県や市町村がある程度は責任を取ってくれます。
だからと言って毎回こんな綱渡りの様なことでいいのかな?
もっと良い方法は無いのかな?
人の生活圏近くでの捕獲業務。
猟期中の猟より遥かに危険です。
それを考えたら本当はやらない方がマシ。
でも誰かがやらないと・・・・・
このジレンマはいつまで続くのだろう。

健気な猟犬たちを見て思うのでした。
